邪馬台国はヤマトか、そして好古都国はハカタか

1. 邪馬台国はヤマトか


井沢氏曰く、古代に おいて臺字の発音は "ダイ" "ダ" で あるが、自身で聞いた限りでは "ド" に近い音だから邪馬台国はヤマトで あると言う

引用しよう
【逆説の日本史】 1 古代黎明編 P.301

「ヤマダイ」か「ヤマダ」(イがほとんど聞こえない)であり、私のひいき目(耳?)かもしれないが、「ヤマド」と聞こえないこともない。

もし「ヤマダ」なら「ヤマト」とは極めて近いことになる。

いやもう無茶苦茶で ある
ご自身の贔屓耳と やらで事実を捩じ曲げてしまっている訳で あり、愚としか言い様が無い
中国での音韻は複雑且つ豊富で あり、そして中国人は それぞれの音韻を正確に判別する事が可能で ある

現代日本人に とっては現代中国語の発音すら把握が難しい(四声に挫折してしまう人が とても多い)ので あるが、更に、現代音では既に失われた表音が存在する事が分かっている
例えば北京語では、北Pei 京king が 北Bei 京jing に変音して いるが、これは キ:ki の表音が失われたからで あると言う
これは、大学で中国語を教える北京出身の中国人講師が、講義で主張していた事で ある
恐らく古代中国語=古代漢語は更に表音が複雑で あったと思われる

また、古代日本の倭語にも母音の表音に甲音と乙音の発音上の区別が あった事が、当時の万葉仮名から読み取れる
現代日本人には、甲類音と乙類音の区別は ほぼ不可能で あろうと思われるが、少なくとも古代の日本人には正確に識別出来ていた訳で ある

氏は自著の別の箇所では、
【逆説の日本史】 1 古代黎明編 P.95

中国人はこれを厳密に区別して発音できる。似ているから同じだとは絶対に言えない

などと述べて いるでは ないか
古代の中国人には識別出来ても、古代の日本人には識別出来ない とでも言いたいので あろうか

その漢語表音に よる "ヤマダ" と やらと倭語に よる "ヤマト" が近い音で あったか どうかの検証すら行なった形跡も無く、それこそ一方的に、極めて近い等と断定して しまっている訳で ある
馬鹿に付ける薬は無いとは、こう言う事を言うので あろう

そもそも臺字の音は "ド" なので あろうか?
臺字の音韻は "タイ" "ダイ" で あり、 "ト" "ド" とは表音しない様に思えるが、どうか
比較的新しい音韻で ある "タイ" は その前の "ダイ" から変遷したもので あろう

古代中国の音韻に よれば、臺字の上古音は dəg、中古音は dəi だそうで ある

以下は私が臺字の表音を考察したもので ある

臺字訓 邪馬臺はヤマトと読めるのか

つまり 邪馬臺 の上古音は ŋiǎg-mǎg-dəg、中古音は yiǎ-mǎ-dəi と言う事に なる
敢えて片仮名で表記すると上古音は ンィァマデュァ、中古音では ィァマデュイ とでも書くべきか

私見では、魏晋朝は上古音から中古音への変遷期で あると考えているので、 "ダ" ではなく "ダイ"、つまり ヤマダイ が正しいと考えている
いずれに しても、ヤマト とは近くも何ともない事は確かで ある



2. 好古都国はハカタか


なお、氏は続けて 好古都国 は博多の事で あると言う
【逆説の日本史】 1 古代黎明編 P.302

たとえば、「魏志倭人伝」には、「その他大勢」の国名として、「好古都国」「対蘇国」というのが登場するが、これを「こうことこく」「ついそこく」などと読む前に、中国古音で読みべきなのである。

これを研究者に読んでもらったところ、私の耳には「ハ(ホ)カタ」「トサ(ス)」と聞こえた。

博多であり土佐(あるいは佐賀県の鳥栖)ではないのか。

さて、古代倭語ではハ行音が語頭に表れるで あろうか
上古音乃至中古音で表音すべきとの見解は是なりと考えるが、三世紀当時の時点でハ行音が語頭に来る事は難しいと考えざるを得ないので、ハカタ なる表音及地名は存在しなかった様に思われる

因(ちな)みに博多と言う地名を確認出来るのは八世紀まで下る必要が あり、それまでは博多を 那の津 や 儺の津 と表記していた事が分かっている

補足として、好古都国と対蘇国の実際の表音を確認した
結果は以下の通りで ある

好古都国の表音
字音候補 上古音 中古音 中世音 現代音 拼音ピンイン 呉音 漢音 万葉仮名
hog(ホ) hau(ハゥ) hau(ハゥ) hau(ハゥ) hào(ハォ) コウ(カウ) コウ(カウ) よ乙類[註1](万葉集)
- - - - hăo(ハァオ) コウ(カウ) コウ(カウ) -
- kag(カ) ko(コ) ku(ク) ku(ク) - コ甲類
- tag(タ) to(ト) tu(トゥ) tu(トゥ) - ツ,ヅ,ト甲類

註1:

表音とは何の関係も無く ただ 万葉集 に借訓文字として使用されているので、厳密には万葉仮名と言って良いのかは何とも言えない


対蘇国の表音
字音候補 上古音 中古音 中世音 現代音 拼音 呉音 漢音 万葉仮名
対(對) - tuəd(トゥァドュ) tuəi(トゥァィ) tuəi(トゥァィ) tuəi(トゥァィ) - タイ タイ 該当する表音無し
- sag(サ) so(ソ) su(ス) su(ス) - ソ甲類

好古都国の上古音での表音は、

ホ カ タ


中古音では

ハゥ コ ト


と なるが、当時の倭語はハ行音が存在しないと思われるので、これを補正すると

上古音: フオ カ タ
中古音: フアゥ コ ト


と なる

どうやら、井沢氏が依頼した研究者と やらは上古音で発音したものと思われる
井沢氏には少々残念で あるが、ハ(ホ)カタ の ホカタ の方が正しく、ハカタ は少し違う様で ある

まぁ それ以前に、上古音と中古音と言うものが何で あるか さえも、恐らくは理解出来て いないと思うが...

ついでに書き述べて おくが、好古都国の表音は中古音で あると思われる
以下は三国志 魏志 倭人伝の表音に ついて考察したもので ある

魏志倭人伝の表音は上古音か


若(も)し好古都国の表音が上古音の ホカタ で あると すると、伊都国の表音は イタ国に なってしまうからで ある
イタ国と言うのは絶対に あり得ないので、伊都国の表音は中古音の イト国と なる事、当然で あろう

つまり、好古都国の表音は中古音の ハゥコト、倭語では フアゥコト が正しいと言う事に なる

続いて対蘇国の表音で あるが、

上古音: トゥァドュ サ
中古音: トゥァィ ソ


どうやら上古音の トゥァドュサ が トサ 若しくは トス と聞こえた らしい
これも実際の表音とは、少し違う様に思える

対蘇国も中古音で あろうかと疑われるが、対海国の対字が上古音で発音されているものと思われるので、対蘇国も上古音で ある可能性が ある
対海国に ついては、以下の考察を参照

対海国の海字表音は マ

対字を倭語で表すのは仲々(なかなか)に難しいので、何となれば中古音を採用したくなる
その場合の倭語は、テソ国と なるのでは ないかと思われる

尚(なお)、私見では博多は不弥国で あろうと考えているが、いずれに しても、三世紀の倭語では ハカタ は存在しないので ある

不弥国に ついては、以下の考察を参照

不弥国は宇美か



3. 関連 URI


参考と なる URI は以下の通り

台与 - Wikipedia
○漢字音変遷 - 漢字論原点回帰II - Yahoo!ブログ

魏志倭人伝の固有名詞の漢字
魏志倭人伝の固有名詞の漢字-2

公開 : 2014年3月11日
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