臺字訓 邪馬臺はヤマトと読めるのか

1. 邪馬臺国は "ヤマトコク" なのか


女王国関西論者に よると、邪馬臺国は "ヤマトコク" とみ、大和国の事であると言う
更に九州説に おいても、これに同調する者が いるようで ある

本当で あろうか?



2. 臺字と台字


"とある方々" 曰く、臺字と台字は通用する、と
確かに現代では そうかも知れぬが、それを以て古代に おいても通用していたと言う事には なり得まい
これは、"臺字と台字が通用していて欲しい" と言う独り善がりの願望でしか あるまい

臺字と台字の表音に ついて、やはり原典で確かめて見ねば なるまいと考え、私は実際に【日本書紀】を読んで見たので ある

すると、実は 日本書紀 には 興台産霊こごとむすひ との人名記述が あり、万葉仮名に おいて台字を "ト" と訓んでいる
日本書紀に おいて台字は以下の 2例しか存在しなかった
【日本書紀】 卷第一 神代上

至於日神 閉居于天石窟也 諸神遣中臣連遠祖興台產靈兒天兒屋命 而使祈焉

# 画像は 国立国会図書館デジタル化資料 - 日本書紀 巻1,2 で公開されているものを利用している
日本書紀 卷第一 神代上 1
【日本書紀】 卷第一 神代上

興台產靈 此云許語等武須毘

日本書紀 卷第一 神代上 2
彼等の意図が お分かりで あろうか?

そう、関西論者の論法はくのごとくで ある

1) 邪馬臺はヤマトと訓みたい [願望]


2) 台字は万葉仮名で "ト" と訓む [事実]


3) 邪馬臺をヤマトと訓むためには、臺字の ままでは都合が悪い [流石に後ろ めたいのか?]


4) 臺字を台字に置き換えて しまえば、ヤマトと訓める [独り善がりの仮定]


5) 故に、臺字と台字は通用していたと思いたい [願望]

と言う事なので ある
しかしながら、彼等から すれば非常に困った事に、日本書紀 では臺字と台字は厳密且つ明確に書き分けられているので ある

実際に読み進めれば簡単明瞭、本当に簡単に分かる事なので あるが、日本書紀 では台字と臺字の音訓が区別されている事が確認出来る
また、台字と臺字が通用ないし誤用している事例は一例たりとも確認出来ず、これにより両字は厳密に区別されている事が判明する
日本書紀 では、臺字を "たかどの" "うてな" "かけもの" と訓んだ事実は確認出来るが、"ト" と訓まれた事例は、実は一箇所たりとも存在しないので ある
【日本書紀】 卷第二 神代下

其宮也 雉堞整頓 たかどの宇玲瓏

日本書紀 卷第二 神代下 1
【日本書紀】 卷第二 神代下

其宮也 城闕崇華 樓うてな壯麗

日本書紀 卷第二 神代下 2
【日本書紀】 卷第十 譽田天皇 應神天皇

廿二年 春 三月 甲申 朔 戊子 天皇幸難波 居於大隅宮 丁酉 登たかどの而遠望
夏 四月 兄媛自大津發船而往之 天皇居たかどの 望兄媛之船以歌曰

【日本書紀】 卷第十一 大鷦鷯天皇 仁德天皇

四年 春 二月 己未 朔 甲子 詔群臣曰 朕登たかどの以遠望之
七年 夏 四月 辛未 朔 天皇居たかどの
卅八年 春 正月 癸酉 朔 戊寅 立八田皇女爲皇后
秋 七月 天皇與皇后 居たかどの而避暑

【日本書紀】 卷第廿五 天萬豐日天皇 孝德天皇

うてな直須彌のあたひすみ 初雖諫上 而遂倶濁
其擊鍾吏者 垂赤巾於前 其鍾かけもの 起於中庭

【日本書紀】 卷第廿七 天命開別天皇 天智天皇

于時近江國講武 又多置牧而放馬 又越國獻燃土與燃水 又於濱うてな之下 諸魚覆水而至
夏 四月 丁卯 朔 辛卯 置漏剋於新うてな

【日本書紀】 卷第卅 高天原廣野姬天皇 持統天皇

三月 甲申 朔 日有蝕之 乙酉 以直廣肆大宅朝臣麻呂,勤大貳ごんだいにうてな忌寸八嶋のいみきやしま,黃書連本實等 拜鑄錢司

逆に、臺字を "ダイ" と訓んだ事例が あり、これで完全に臺字が台字と何等関わり無い事は明明白白で ある
【日本書紀】 卷第廿五 天萬豐日天皇 孝德天皇

管子曰

黃帝立明堂之議者上觀於賢也 堯有衢室之問者下聽於民也 舜有告善之旌而主不蔽也 禹立建鼓於朝而備訊望也 湯有總術之廷以觀民非也 武王有靈之囿而賢者進也

管子の引用では あるが、霊臺の音は "レイダイ" で あろう
【日本書紀】 卷第廿七 天命開別天皇 天智天皇

二月 戊辰 朔 庚寅 百濟遣久用善等進調

臺久用善は人名で、音は "ダイクヨウゼン" と思われる
【日本書紀】 卷第廿九 天渟中原瀛眞人天皇 下 天武天皇

初位以上進薪 庚戌 始興占星

占星臺 の訓は "センセイのうてな" なのか "センセイダイ" で あるかは悩ましいが、占星臺自体は唐朝から輸入したものと思われるので、"センセイダイ"相応ふさわしいように思う

臺字の用例は これで全てかと思うが、どうか
無論これは私が直接手を動かして確かめたもので あるから、あるいは見落とし過不足等が あるかも知れず、その際には御容赦あられたい

当然の事で あるが、台字を "ダイ" と訓んだ事例は存在しない
なお、日本書紀 では表音に唐代の長安音が採用されているが、この臺字の表音である "ダイ" は それより以前に使用されていた音で あるかも知れない

これまで読み進めた方には簡単にかいせると思うが、台字は万葉仮名の表音文字として しか採用されていない事が分かる
これに反し、臺字は大部分は訓読み で使用している事が確認出来る
そして、引用文および人名表記の箇所では、万葉仮名では ない漢語音が採用されていると言う事に なる
これを "臺字の法則" と名称しよう



3. 苔字と臺字


またまた "とある方々" 曰く、苔字は乙類のトで あり、臺字とは上古音と中古音が同音で あるから、実際例には無くても臺字は "ト" と訓んで良い、と言う
例えば以下のような箇所が ある
【日本書紀】 卷第七 大足彥忍代別天皇 景行天皇

夜摩やま 區珥能摩倍邏摩くにのまほらま 多々儺豆久たたなづく 阿烏伽枳あをかき 夜摩許莽例屢やまこもれる 夜摩やま之于屢破試しうるはし

しかしながら、中国で同音と言う事が即ち日本での表音が等しいと断じて良いので あろうか

文献精査上、事実として どう表音されていたかが重要であり、苔字と臺字、台字と臺字が同じ "ト" と訓まれた事実が あるか どうか こそが肝要で あろう
重要故に何度も記すが、臺字を "ト" と表音された事例は皆無なので ある

ついでに言うと、中国で同音で あるが日本では別音、と言う "とある方々" に とって かなり頭の痛い事例が存在する事を、確認して しまったので ある

【広韻】で 伎字 と 岐字 は共に 巨支切 の同音の字である が、日本書紀 内では異なる扱いを受けている
伎字は "キ" "ギ" の表音として採用されているが、岐字は "キ" の表音しか採用されていないので ある

何故 日本書紀 では この様に両字の扱いに差違を設けているのかは不明で あるが、少なくとも、中国で同音で あるからと言って日本でも同音で あったか どうかは、充分に精査する必要が あると言う事で ある
この様な事例が存在している以上、漢語として苔字と臺字が同音で あったとしても、日本で同音とは限らないので ある
これを "伎岐の法則" と名称しよう



4. 万葉仮名 上代特殊仮名遣に おける台字と臺字


更に更に更に、"とある方々" は言うかも知れぬ
橋本 進吉 の上代特殊仮名遣では、臺字は "ト" 音に分類されているでは ないか、と

しかしながら、これを読んで みて欲しい

「やまと」について

橋本進吉氏の『古代国語の音韻に就いて』の中の万葉仮名類別表には、「ト」の乙類に万葉仮名としてはどこにもないはずの「臺」があり、逆に『日本書紀』にあるはず(前掲「興台産靈」)の「台」がない。
橋本氏の著作集3『文字及仮名遣の研究』にもこの表があり、やはり「臺」はあるが「台」はない。
しかし「臺」は( )の中にあり、その後尾に刊行委員附記として、[橋本博士は後に増訂した一覧表を『古代国語の音韻に就いて』の巻末に附けられた。
今、それと対照し、増補せられた部分を括弧にくくって追加する]と書かれている。
「臺」は後になって「ト」の乙類に追加されたのである。
橋本氏はなぜ「臺」を後から追加したのだろうか。
「臺=台=ト」と読もうとする人たちに組してしまったのだろうか。
今となってはその真意はわからない。

私にも分からない

上記文面を読む限りでは、橋本 進吉 氏は始め臺字を上代特殊仮名遣から除外、つまり乙類ト音に分類しては いなかった事が読み取れる

しかし その後、何を思ったか不明で あるが、臺字を乙類ト音に追加してしまうと言う愚挙を強行して しまった事に なる
当然の事で あるが、臺字が乙類ト音で使用されている史料事実は全く確認出来ないので、これは増訂と称して一覧表を捏造したものと言わざるを得ない

どうして その様な愚劣な行為を してしまったのか、私には もう 橋本 氏の心情を知る事は不可能で ある
氏を疑いたくは無いが、恐らくは歴史家としての矜恃を捨てて女王国 関西論者(=ヤマト論者)に魂を売り飛ばして しまったので あろうかと思う

なお、橋本 氏の捏造された万葉仮名類別表を基に 邪馬臺=ヤマト を主張する論説も ある様で ある
例えば以下の通り

倭国の相貌/放言集/邪馬臺國畿内説...プログラム/「邪馬臺」を読む

「臺」は乙類の「ト」または「ド」を表記したものであり、したがって「邪馬臺」は「ヤマト(乙)」または「ヤマド(乙)」である、

この人は上記 URI の右側に万葉仮名の分類表を掲げ、これを根拠として 邪馬臺=ヤマト と論を進めている
しかし ながら、万葉仮名の分類が捏造されたもので ある以上、この表に信憑性が無い事は明瞭で ある

と言う訳で、私は上記 URI の制作者に、質問のメールを送ってみた
文面は以下の通り

お手数なのですが、臺と言う字が万葉仮名の乙類トで使用されている文献は
どちらに なりますでしょうか?

残念ながら、回答は得られて いない

一つ言える事は、私は 日本書紀 を読んで みたが、臺字を "ト" と表音していた箇所は一つたりとも見当たらなかったと言う事で ある



5. 結論


邪馬臺は ヤマト とは読めない
日本書紀 の編者は これを ヤマダイ と訓んだで あろうと思われる
現代人で あれば、濁音として読まずに清音として これを ヤマタイ と読んで良いと思う

そう、邪馬臺国は "ヤマタイコク" なので ある

それに しても思う事で あるが、関西説の人達の邪馬臺を ヤマト と読みたいと言う願望は、凄まじくも鬼気迫る ものが ある
彼等はおのが願望をかなえるためには もう手段を選ばず、ありとあらゆる言辞げんじろうしている

その形振なりふりて構わず ヤマト と読もうと塗炭とたんの苦をめるさまは、滑稽で すら ある
その気力を他の事に向けた方がはるかに生産的なのでは無いかと思って しまうのは、私だけでは あるまい

私は彼等の様な、一種異様で病的な主張に拘泥こうでいする方達を、関西説大和教(関西説ヤマト教)と言う宗教に毒された徒なのでは無いかととらえている



6. 関連 URI


参考と なる URI は以下の通り

「古代国語の音韻に就いて」橋本 進吉 62/64ページ
# この一覧は明らかに捏造で ある

万葉仮名(まんようがな)一覧
# こちらの分類は臺字が除外されて代わりに台字が分類されている

公開 : 2014年2月16日
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