獲加多支鹵は倭王武か

1. 定説を信じ込まされていた事に気付く

歴史書でも教科書でも、稲荷山古墳出土の稲荷山鉄剣に書き入れられた銘文に登場する獲加多支鹵大王は雄略天皇の事で倭の五王の武の時代に一致すると教え込まれ信じ込まされて来た

しかし、文献を改めて読み返して見ると、実はそうでは無かった事に気付いてしまった

敢えて書こう、獲加多支鹵とは倭王興の時代に生きた大王である

2. 獲加多支鹵が生きた時代を繙ひもとく

.1 倭王武の登場

獲加多支鹵大王と同一人物とされる倭王武は、南朝の宋王朝第八代皇帝順帝の時代に歴史舞台に登場する

と言っても、昇明元年(西暦477年)に即位して昇明三年(479年)に禅譲を強要せられる不憫な皇帝で、最後は禅譲した斉朝太祖蕭道成に殺害されてしまったと言う
嘗かつては東漢朝最期の皇帝献帝は魏朝曹丕に禅譲させられたが、曹丕よりも長生きした歴史の佳話もあったが...
宋朝初代劉裕は東晋朝恭帝に禅譲させた後に殺害してのけたので、その悪業は己おのが子孫に祟りをなしたと言う事か
因果応報、自業自得と言う他無い

この宋書の本紀十巻, 志三十巻, 列伝六十巻で計百巻中に倭の文字が表れないかと探して見た
宋書に倭が登場する箇所は、以下の通りである

【宋書】卷五本紀第五文帝

撰者 : 南齊朝-梁朝沈約

(元嘉七年)(430年)(春正月) 是月倭國王遣使獻方物
(元嘉十五年)(438年)(夏四月) 己巳以倭國王珍爲安東將軍
(元嘉十五年) 是歲武都王,河南國,高麗國,倭國,扶南國,林邑國竝遣使獻方物
(元嘉二十年)(443年) 是歲河西國,高麗國,百濟國,倭國竝遣使獻方物
(元嘉二十八年)(451年) 秋七月甲辰安東將軍倭王倭濟進號安東大將軍

【宋書】卷六本紀第六孝武帝

(大明四年)(460年)(十二月)(丁未) 倭國遣使獻方物
(大明六年)(462年) 三月壬寅以倭國王世子興爲安東將軍

【宋書】卷十本紀第十順帝

(昇明元年)(477年) 冬十一月己酉倭國遣使獻方物
(昇明二年)(478年) 五月戊午倭國王武遣使獻方物以武爲安東大將軍

【宋書】卷二十一志第十一樂三

羅敷豔歌羅敷行古詞三解

日出東南隅照我秦氏樓
秦氏有好女自名爲羅敷
羅敷喜蠶桑采桑城南隅
青絲爲籠系桂枝爲籠鉤
頭上倭墮發耳中明月珠

ここの倭は倭国の倭と関連するのか、良く分からない

【宋書】卷九十七列傳第五十七夷蠻傳倭國傳

倭國在高驪東南大海中世修貢職
高祖(在位420年-422年)永初二年(421年) 詔曰

倭讚萬里修貢遠誠宜甄可賜除授

太祖(在位424年-453年)元嘉二年(425年) 讚又遣司馬曹達奉表獻方物
讚死弟珍立遣使貢獻
自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭國王表求除正
詔除安東將軍,倭國王
珍又求除正倭隋等十三人平西,征虜,冠軍,輔國將軍號
詔竝聽
(太祖文帝)二十年(443年) 倭國王濟遣使奉獻復以爲安東將軍,倭國王
(太祖文帝)二十八年(451年) 加使持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事安東將軍如故并除所上二十三人軍郡
濟死世子興遣使貢獻
世祖(在位453年-464年)大明六年(462年) 詔曰

倭王世子興奕世載忠作藩外海稟化寧境恭修貢職新嗣邊業宜授爵號可安東將軍,倭國王

興死弟武立
自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓七國諸軍事安東大將軍倭國王
順帝(在位477年-479年)昇明二年(478年) 遣使上表曰

封國偏遠作藩于外自昔祖禰躬擐甲冑跋渉山川不遑寧處
東征毛人五十五國西服衆夷六十六國渡平海北九十五國王道融泰廓土遐畿累葉朝宗不愆于歳
臣雖下愚忝胤先緒驅率所統歸崇天極道逕百濟裝治船舫
而句驪無道圖欲見呑掠抄邊隷虔劉不已毎致稽滯以失良風雖曰進路或通或不
臣亡考濟實忿寇讎壅塞天路控弦百萬義聲感激方欲大擧奄喪父兄使垂成之功不獲一簣居在諒闇不動兵甲是以偃息未捷
至今欲練甲治兵申父兄之志義士虎賁文武效功白刃交前亦所不顧
若以帝徳覆載摧此彊敵克靖方難無替前功竊自假開府義同三司其餘咸假授以勸忠節

詔除武使持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭王

思ったよりも、以外と文字数が少ない様ように思ってしまった
それにしても、歴史を繙く際には紀伝体と言う書の書き方は、何とも不便ではある
もう少し分かり易く書けないものか....

と言う事で、上記倭国記事を時系列順に整理して見たい所であるが、その前にどうしてもこれに触れておかねばならない

.2 王名は諱(いみな;忌み名)

非常に重要な事であるが、倭の五王として挙げられているの讃,珍,済,興,武の各王者の王名は、王号(称号)では無く諱なのである

以前私は井沢元彦氏の著書【逆説の日本史】の批判を行った事があるが、その一つが、卑弥呼は実名では無いと言う主張であった
これに対し、卑弥呼は実名であると判断せざるを得なかった
この考察は以下の通りである

卑弥呼は称号か

倭王武は宋朝に上表文を呈しているのであるが、当然それには実際の姓名が書かれていなければならない
そして、上記引用文を再掲するが、

【宋書】卷五本紀第五文帝

(元嘉二十八年)(451年) 秋七月甲辰安東將軍倭王倭濟進號安東大將軍

【宋書】卷九十七列傳第五十七夷蠻傳倭國傳

高祖永初二年(421年) 詔曰

倭讚萬里修貢遠誠宜甄可賜除授

【宋書】卷九十七列傳第五十七夷蠻傳倭國傳

珍又求除正倭隋等十三人平西,征虜,冠軍,輔國將軍號

宋書では無いが、他書にも以下の様な記述が見受けられる

【南史】卷七十九列傳第六十九夷貊下東夷倭國

撰者 : 唐朝李大師, 李延壽(寿)

珍又求除正倭洧等十三人平西征虜冠軍輔國將軍等號詔并聽之

洧字と隋字は旁(つくり)の月が共通しており、多少は似ていると言えなくも無い
と言う訳で、倭洧は倭隋の誤写では無いかと思われるが、或いは後代史書である南史の方が正しいと言う可能性もある
この点については、現時点ではこれ以上は触れない事とする

さて、見れば一目瞭然であるが、倭王倭済, 倭讚, 倭隋(倭洧) とあり、倭が氏姓で済, 讃, 隋(洧) が諱であるものと解する他(ほか)無い
つまり、倭王武は倭と言う姓の武と言う名前であると考えざるを得ないのである

.3 倭国記事を時系列順に整理

倭国に関する記事を年次毎に並べると共に、早朝歴代皇帝の代替(だいが)わりと獲加多支鹵大王の鉄剣記銘を副(そ)えると、以下の通りとなる


項番	西暦	宋暦	内容	出典	想定年次条件
1	420年	永初元年	宋朝第一代高祖武帝(劉裕) 即位	-	-
2	421年	永初二年	詔曰倭讚萬里修貢遠誠宜甄可賜除授	倭国伝	-
3	422年	永初三年	高祖崩御	-	-
4	422年	永初三年	第二代少帝(劉義符) 即位	-	-
5	424年	景平二年	少帝崩御	-	-
6	424年	景平二年	第三代太祖文帝(劉義隆) 即位	-	-
7	425年	元嘉二年	讚又遣司馬曹達奉表獻方物	倭国伝	-
8	？年	？	讚死弟珍立遣使貢獻自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭國王表求除正詔除安東將軍,倭國王珍又求除正倭隋等十三人平西,征虜,冠軍,輔國將軍號詔竝聽	倭国伝	425年以降 443年以前
9	430年	元嘉七年	(春正月) 是月倭國王遣使獻方物	文帝紀	-
10	438年	元嘉十五年	(夏四月) 己巳以倭國王珍爲安東將軍	文帝紀	-
11	438年	元嘉十五年	是歲武都王,河南國,高麗國,倭國,扶南國,林邑國竝遣使獻方物	文帝紀	-
12	443年	元嘉二十年	是歲河西國,高麗國,百濟國,倭國竝遣使獻方物	文帝紀	-
13	443年	元嘉二十年	倭國王濟遣使奉獻復以爲安東將軍,倭國王	倭国伝	-
14	451年	元嘉二十八年	秋七月甲辰安東將軍倭王倭濟進號安東大將軍	文帝紀	-
15	451年	元嘉二十八年	加使持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事安東將軍如故并除所上二十三人軍郡	倭国伝	-
16	？年	？	濟死世子興遣使貢獻	倭国伝	451年以降 462年以前
17	453年	元嘉三十年	文帝崩御	-	-
18	453年	元嘉三十年	第四代世祖孝武帝(劉駿) 即位	-	-
19	460年	大明四年	(十二月)(丁未) 倭國遣使獻方物	孝武帝紀	-
20	462年	大明六年	(三月)壬寅以倭國王世子興爲安東將軍	孝武帝紀	-
21	462年	大明六年	詔曰倭王世子興奕世載忠作藩外海稟化寧境恭修貢職新嗣邊業宜授爵號可安東將軍,倭國王	倭国伝	-
22	？年	？	興死弟武立自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓七國諸軍事安東大將軍倭國王	倭国伝	462年以降 478年以前
23	464年	大明八年	孝武帝崩御	-	-
24	464年	大明八年	第五代前廃帝(劉子業) 即位	-	-
25	465年	景和元年	前廃帝崩御	-	-
26	465年	景和元年	第六代太宗明帝(劉彧) 即位	-	-
27	471年？	泰始七年？	獲加多支鹵大王寺在斯鬼宮時吾左治天下令作此百練利刀記吾奉亊根原也	-	-
28	472年	泰予元年	明帝崩御	-	-
29	472年	泰予元年	第七代後廃帝(劉昱) 即位	-	-
30	476年	元徽四年	後廃帝崩御	-	-
31	476年	元徽四年	第八代順帝(劉準) 即位	-	-
32	477年	昇明元年	冬十一月己酉倭國遣使獻方物	順帝紀	-
33	478年	昇明二年	五月戊午倭國王武遣使獻方物以武爲安東大將軍	順帝紀	-
34	478年	昇明二年	遣使上表曰封國偏遠作藩于外自昔祖禰躬擐甲冑跋渉山川不遑寧處(以下略) 詔除武使持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭王	倭国伝	-
35	479年	昇明三年	順帝崩御	-	-

こうして見ると、宋朝歴代の皇帝達はいずれも短命な最期を閉じており、しかも天寿を全(まっと)うせずに死んだ者も多い
愚昧な皇帝もいる様なので、自業自得と言う他無いが

一通り見渡すと、本紀と倭国伝の記事がほぼ綺麗に対置しており、対照させ易い
例えば上記表の項番12 と項番13 が対応し、項番14 と項番15 も対応している
少し年数が経(た)って項番20 と項番21 が対応し、項番33 と項番34 も対応している

勿論この記事対置は完全では無い
例えば高祖在世中の倭国遣使記事が武帝紀には見当たらず、遣使貢献したかどうか分からないが、倭国伝では修貢して除授されているので、遣使貢献が行われたものと思われる
この辺(あた)りは多少物足りないと言う感もあるが、整合性が取れていない訳(わけ)では無い

思うに高祖劉裕の最晩年の時期に当たっており、東晋朝からの禅譲と宋朝創建により忙殺され、東夷の一国への対応に手間を割(さ)けなかったと言う事かも知れない
基本的に本紀では遣使貢献の月次まで記録されている事が多いが、倭国伝では年次止まりである
建国創業で天手古舞(てんてこまい)の時期であったために正確な月日の記録が失われ、それがために倭国からの遣使貢献記事が武帝紀に載録されていないと言う可能性はある

さて上記表の項番8 の年次が不明であるが、幸いな事に、該当する年次想定の条件が分かっており、425年以降かつ 443年以前のいずれかの時点と言う事になる
これに該当する文帝紀内の記事として、項番9 若(も)しくは項番10,11 が候補に挙げられる
項番9 の時点における倭国王が誰であるかは記載されていないが、倭国王珍の除正について何も触れていないので、恐らくは倭王倭讃が在世であったのかとも思える
ならば項番10 が項番8 への対応として相応(ふさわ)しいものと思われる

上記表を一部更新すると、以下の通りとなる


項番	西暦	宋暦	内容	出典	想定年次条件
2	421年	永初二年	詔曰倭讚萬里修貢遠誠宜甄可賜除授	倭国伝	-
7	425年	元嘉二年	讚又遣司馬曹達奉表獻方物	倭国伝	-
9	430年	元嘉七年	(春正月) 是月倭國王遣使獻方物	文帝紀	-
8	438年	元嘉十五年	讚死弟珍立遣使貢獻自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭國王表求除正詔除安東將軍,倭國王珍又求除正倭隋等十三人平西,征虜,冠軍,輔國將軍號詔竝聽	倭国伝	-
10	438年	元嘉十五年	(夏四月) 己巳以倭國王珍爲安東將軍	文帝紀	-
11	438年	元嘉十五年	是歲武都王,河南國,高麗國,倭國,扶南國,林邑國竝遣使獻方物	文帝紀	-

次に年次が不明なのは項番16 であるが、これは条件が 451年以降かつ 462年以前のいずれかの時点と言う事になる
これに該当する孝武帝紀内の記事は、項番19 或いは項番20,21 のどちらかとなるが、項番19 は倭国王倭済が在世と見做(みな)した方が自然であると思われる
となれば対応する記事は項番20,21 が相応しいものと思う

上記表を再度一部更新すると、以下の通りとなる


項番	西暦	宋暦	内容	出典	想定年次条件
12	443年	元嘉二十年	是歲河西國,高麗國,百濟國,倭國竝遣使獻方物	文帝紀	-
13	443年	元嘉二十年	倭國王濟遣使奉獻復以爲安東將軍,倭國王	倭国伝	-
14	451年	元嘉二十八年	秋七月甲辰安東將軍倭王倭濟進號安東大將軍	文帝紀	-
15	451年	元嘉二十八年	加使持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事安東將軍如故并除所上二十三人軍郡	倭国伝	-
17	453年	元嘉三十年	文帝崩御	-	-
18	453年	元嘉三十年	第四代世祖孝武帝(劉駿) 即位	-	-
19	460年	大明四年	(十二月)(丁未) 倭國遣使獻方物	孝武帝紀	-
16	462年	大明六年	濟死世子興遣使貢獻	倭国伝	-
20	462年	大明六年	(三月)壬寅以倭國王世子興爲安東將軍	孝武帝紀	-
21	462年	大明六年	詔曰倭王世子興奕世載忠作藩外海稟化寧境恭修貢職新嗣邊業宜授爵號可安東將軍,倭國王	倭国伝	-

年次が不明である残りの項番22 であるが、462年以降かつ 478年以前のいずれかの時点と言う条件になる
これに該当する本紀の記事は、宋朝最後の皇帝順帝について記述された順帝紀に載録されている項番32 若しくは項番33 のどちらかとなるが、今まで同様に項番32 は倭国王興が在世と見做すべきかと思われる
さすれば対応する記事は項番33 が相応しいものと考えるのが妥当であろう

上記表を再度一部更新すると、以下の通りとなる


項番	西暦	宋暦	内容	出典	想定年次条件
16	462年	大明六年	濟死世子興遣使貢獻	倭国伝	-
20	462年	大明六年	(三月)壬寅以倭國王世子興爲安東將軍	孝武帝紀	-
21	462年	大明六年	詔曰倭王世子興奕世載忠作藩外海稟化寧境恭修貢職新嗣邊業宜授爵號可安東將軍,倭國王	倭国伝	-
27	471年？	泰始七年？	獲加多支鹵大王寺在斯鬼宮時吾左治天下令作此百練利刀記吾奉亊根原也	-	-
32	477年	昇明元年	冬十一月己酉倭國遣使獻方物	順帝紀	-
22	478年	昇明二年	興死弟武立自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓七國諸軍事安東大將軍倭國王	倭国伝	-
33	478年	昇明二年	五月戊午倭國王武遣使獻方物以武爲安東大將軍	順帝紀	-
34	478年	昇明二年	遣使上表曰封國偏遠作藩于外自昔祖禰躬擐甲冑跋渉山川不遑寧處(以下略) 詔除武使持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭王	倭国伝	-

.4 471年の倭王は誰か

ここで注目すべき箇所がある
それは、倭王興の薨去年と倭王武の除正年である

倭王興は 462年三月壬寅に倭王に除正されている
恐らくは 462年若しくはその前年 461年辺りに、父王倭王倭済が薨去したものと考えられる
当時は倭国から宋都建康までの移動にどの位の日程を必要としたのであろうか？
何とも良く分からないが、数ヶ月から一年以内程度であろうか

若し 462年一月に倭王倭済が薨去してその世子興が建康に船を出航させても、三月には到着すまい
となれば、やはり 461年薨去と見做すのが妥当かと思う

同様に、倭王武の除正は 478年五月戊午とある
その前年 477年冬十一月己酉には貢献記事があるが、これは倭王興が行ったものと判定するのが妥当であろう

さて、そうなると倭王興が薨去したのは 477年から 478年の初め頃、と必然的に導かれてしまう
然(しか)らば倭王武が除正されるより少し前、471年には何があったか？

【埼玉県稲荷山古墳金錯銘鉄剣金象嵌銘文】

辛亥年(471年か？) 七月中記
乎獲居臣上祖名意冨比垝
其児多加利足尼
其児名弖巳加利獲居
其児名多加披次獲居
其児名多沙鬼獲居
其児名半弖比
其児名加差披余
其児名乎獲居臣世々為杖刀人首奉亊来至今
獲加多支鹵大王寺在斯鬼宮時吾左治天下
令作此百練利刀記吾奉亊根原也

稲荷山鉄剣については、以下を参照されたい

獲加多支鹵の訓は "ワカタケル" で正しいか -銘文を中古音で訓む-

獲加多支鹵大王寺に仕えた乎獲居臣が稲荷山鉄剣に銘文を書き入れさせたのが、471年とされている
471年は大和朝廷の雄略天皇の治世とされているが、定説では雄略天皇と獲加多支鹵大王と倭王武は同一人物と見做されている

しかし、471年の段階では未だ倭王武は倭王に除正されておらず、当然ながら倭王倭済が在世であったと言う事になる
つまり、雄略天皇は倭王武では無い事になり、そして獲加多支鹵大王も倭王武では無い事になる

そう、獲加多支鹵大王の治世とされる 471年は、倭の五王における倭王興の時代であったのである

3. 結論

稲荷山鉄剣の銘文に書き入れられた獲加多支鹵大王は、倭の五王として宋書に登場する倭王武では無い
そしてこれは、大和朝廷の雄略天皇もまた、倭王武では無い事を示している

獲加多支鹵大王とは、倭王興の時代に生きた王者だったのである

4. 関連 URI

参考となる URI は以下の通り

宋書 - Wikipedia
沈約 - Wikipedia
宋 (南朝) - Wikipedia
順帝 (南朝宋) - Wikipedia
稲荷山古墳出土鉄剣 - Wikipedia
雄略天皇 - Wikipedia

公開 : 2014年11月27日