家政婦に遺産を譲与すると遺言

1. 遺産相続人の家政婦から遺産を取り上げた実子達、敗訴


親から資産を毟(むし)り取って世話を しない娘二人が、親の死後に遺産を相続した家政婦から遺産を不当に奪い取った廉(かど)で起訴され、被告人達は全面敗訴と相成(あいな)ったと言う

実録・家政婦は見た! 「全遺産はあなたに」の遺言有効 3000万相当持ち去った実娘2人敗訴

実娘側は
「遺言は母親をだまして作成させたもので無効だ」
などと主張したが、原克也裁判長は

「介護せず資産のみに執着する実娘2人と違い、資産家女性に50年以上、献身的に仕えてきた。
遺産で報おうとした心情は自然だ」

と判断。

さらに

「実娘2人は吉川さんの資産に執着し、無心を繰り返してきた。
『遺言は不合理だ』とする実娘側の主張は、それまでの自身の行いを省みないものだ」

と批判し、訴訟費用も全額実娘側の負担とした。

素晴らしい判決、そして見事な判断を下した裁判長で あった
いや、最も優れた判断を行ったのは自身に尽くしてくれた家政婦に資産を譲与すると決めた雇い主で あろう



2. 少々の疑問


さりながら、少々解(げ)せぬ点は ある

吉川さんの夫は59年に死去し、吉川さんは10億円超を相続。
女性は吉川さんのもとで家政婦を続けた。
月給は当初6万円で、夫の死後は無給だった。

無給で どの様(よう)な生活を送っていたので あろうか?
住み込みと言う事で居住費,食費,光熱費を支払う必要は無かったかも知れないが、衣服購入費用や電話料金は何処(どこ)から用意していたので あろうか…
良く分からない

家政婦女性は、中学卒業後に宮崎県から上京し、昭和36年ごろに映像会社創業者の夫と暮らす吉川松子さん(仮名)方で住み込みの家政婦となった。

吉川さんは「全ての遺産は家政婦の女性に渡す」と平成15年に遺言し、23年に97歳で死去。

50年以上と あるので昭和36年の 15歳か 16歳の時から住み込みで働き続けて 65歳か 66歳まで雇い主に尽くして来た事に なる
その間、他(ほか)の仕事に就(つ)こう とは考えなかったので あろうか



3. 遺言を進めにくい日本の実情


少し許(ばか)り不審に思わなくも無いが、しかし本判決に異議を唱える つもりは無い
いや寧(むし)ろ大いに歓迎したい
と言うのも、家政婦と言うのは時間で始業と終業が区分される様な仕事では無く、基本的に一日中雇い主に拘束されて しまい他職よりも神経を疲労する職業で あると思うので、その労働に対する報酬は月額給与に加えて何らかの慰労給与が給されて然(しか)るべきで あろう
私は考えるに、雇い主の身の回りの世話を していた家政婦の労に報いる手段として、この女性資産家には遺産譲与以外に採(と)れる手法が あったで あろうか?
いや、無かったものと思う

其処(そこ)で気に なるのは、果たして家政婦への遺産譲与を遺言として残す事を女性資産家の方から言い出したのか、それとも家政婦の方が勧めたのか、と言う事に なる

いや、別に自身への遺産譲与に拘(こだわ)らず、遺言全般に ついて としても良い

私が若(も)し この女性資産家で あったと する ならば、家政婦から遺産譲与の遺言を残して欲しいと望まれた場合、受け入れてしまうかも知れない
家政婦と言う職業に おける労働の対価として正当な給与を死期が迫る雇い主から遺産として給されたいと願うのは、心情面で納得出来ると思う

ただ、世間一般的には、

「今の内に遺言を残した方が良いですよ」

と言われた場合、さて どうなるで あろうか
恐らく、

「エンギ でも無い、不吉な事を言うな!」

と言い返される事が多いのでは無いかと思う
別に遺言を書いたからとて寿命が縮む訳も あるまいが、どうも日本人(の多く)は不愉快に感じてしまう らしい
いやまぁ、感情面では理解出来なくも無いが、もう少し合理的に律すれば良いのと感じてしまう

何(いず)れにしても遺言を残して損は無いので、資産ある者は積極的に書き残せば良い
どうせ後から変更する事も出来るので ある

まぁ、他人に積極的に推奨するのは難しいかも知れないが…

公開 : 2016年1月29日
戻る
pagetop