南史倭国伝他

1. 南史倭国伝他について

南史と北史は同一人物に撰者による史書であり、当然の事ながら同時代に編纂された史書と言う事になる
同一者による撰者の特権とでも言うべきか、倭国に関する記事も南朝王朝群に属する南史を中心に記載しつつも、北朝史に属する記事は "北史を参照せよ" と宣(のたま)っている
両史書で一つの双子の兄弟の様ような史書である

南史についても、影本として以下の Webページから影本画像を拝借している

《武英殿二十四史》本《南史》 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃

梁書との共通記述が多く、細かい箇所において差違はあるにせよ基本部分の文意には大きな隔(へだ)たりは無い様に見受けられる
ただ、梁書よりも正しいと思われる箇所も確かにあるが、同時に梁書と比較して誤記と覚しき箇所も散見し、少々残念な観はある

所で、南史は梁書倭伝の誤記をそのまま踏襲している箇所があるが、誤記を糾(ただ)していないのは、良いのか悪いのか…
いや、史書比較の上では誤記が何時(いつ)の時点で発生していたかを追跡する事が可能となるので、歴史研究者からすれば大変ありがたい事この上無いと言う所ではある

2. 原文

.1 宋本紀

【南史】卷二宋本紀中第二

撰者 : 唐朝李大師, 李延壽(寿)

(元嘉)(七年)(430年) 是歲馮跋死
倭,百濟,呵羅單,林邑,呵羅他,師子等國並遣使朝貢
吳興,晉陵,義興大水
遣使巡行振恤

(元嘉)(十五年)(438年) 是歲武都,河南,高麗,倭,扶南,林邑等國並遣使朝貢
立儒學館于北郊命雷次宗居之

(元嘉)(二十年)(443年) 是歲河西,高麗,百濟,倭國並遣使朝貢
自去歲至是諸州郡水旱傷稼
人大饑遣使開倉賑恤

(元嘉)(二十八年)(451年) 秋七月甲辰進安東將軍倭王綏濟爲安東大將軍

元嘉七年に倭国以外の朝貢国として挙げられている呵羅単(からぜん)国と呵羅他(からた)国とは何であろうか
呵羅とは違う国か、関連があるのか

元嘉二十八年の項には倭王綏済とあるが、これは倭王倭済の誤記では無いかと思われる
或(ある)いは、隋書俀国伝の記事から倭王俀済と記そうとしたものか

.2 東夷傳序文

【南史】卷七十九列傳第六十九夷貊下東夷

東夷之國朝鮮爲大
得箕子之化其器物猶有禮樂云
魏時朝鮮以東馬韓,辰韓之屬世通中國
自晉過江泛海來使有高句麗,百濟
而宋,齊間常通職貢
梁興又有加焉扶桑國在昔未聞也
梁普通(520年-527年)中有道人稱自彼而至其言元本尤悉故幷錄焉

馬韓,辰韓は箕子朝鮮の東と認識されている
倭国自体は出て来ないが、どうした事か

.3 百濟傳

【南史】卷七十九列傳第六十九夷貊下東夷百濟

號所都城曰固麻謂邑曰檐魯如中國之言郡縣也
其國土有二十二檐魯皆以子弟宗族分據之
其人形長衣服潔淨
其國近倭頗有文身者
言語服章略與高麗同呼帽曰冠襦曰複衫袴曰褌
其言參諸夏亦秦韓之遺俗云
百濟傳
倭が現れるのはここ位か

.4 倭國傳

【南史】卷七十九列傳第六十九夷貊下東夷倭國

倭國其先所出及所在事詳北史
其官有伊支馬次曰彌馬獲支次曰奴往[註1]鞮
人種禾稲紵麻蠶桑織績
有薑,桂,橘,椒,蘇
出黑雉,眞珠,靑玉
有獸如牛名山鼠
又有大虵呑此獸虵皮堅不可斫其上有孔乍開乍閉時或有光射中而虵則死矣
物產略與儋耳,朱崖同
地氣温暖風俗不淫
男女皆露䯰富貴者以錦繍雜采爲帽似中國胡公頭
食飮用籩豆
其死有棺無槨封土作冢
人性皆嗜酒俗不知正歲多壽考或至八九十或至百歲
其俗女多男少貴者至四五妻賤者猶至兩三妻
婦人不婬妬
無盜竊少諍訟若犯法輕者沒其妻子重則滅其宗族
晉安帝時(396年-403年,404年-418年) 有倭王讚[註2] 遣使朝貢
及宋武帝永初二年(421年) 詔曰

倭讚遠誠宜甄可賜除授

文帝元嘉二年(425年) 讚又遺司馬曹達奉表獻方物
讚死弟珍[註3]立遣使貢獻自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭國王表求除正詔除安東將軍倭國王
珍又求除正倭洧等十三人平西,征虜,冠軍,輔國將軍等號
詔並聽之
(元嘉)二十年(443年) 倭國王濟遣使奉獻復以爲安東將軍,倭國王
(元嘉)二十八年(451年) 加使持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事安東將軍如故幷除所上二十三人職
濟死世子興遣使貢獻
孝武大明六年(462年) 詔授興安東將軍倭國王
興死弟武立自稱使持節都督倭,百濟,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓七國諸軍事安東大將軍倭國王
順帝昇明二年(478年) 遣使上表言

自昔祖禰躬擐甲冑跋渉山川不遑寧處
東征毛人五十五國西服衆夷六十六國陵平海北九十五國王道融泰廓土遐畿累葉朝宗不愆于歲
道逕百濟裝飾船舫
而句驪無道圖欲見呑臣亡考濟方欲大擧奄喪父兄使垂成之功不獲一簣
今欲練甲兵父兄之志竊自假開府儀同三司其餘咸各假授以勸忠節

詔除武使持節都督倭,新羅,任那[註4],秦韓,慕韓六國諸軍事安東大將軍倭王
齊建元中(479年-482年) 除武持節都督倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事鎭東大將軍
梁武帝卽位進武號征東大將軍
其南有侏儒國人長四尺
又南有黑齒國,裸國去倭四千餘里船行可一年至
又西南萬里有海人身黑眼白裸而醜其肉美行者或射而食之
文身國在倭東北七千餘里人體有文如獸其額上有三文文直者貴文小者賤
土俗歡樂物豐而賤行客不齎糧
有屋宇無城郭
國王所居飾以金銀珍麗
繞屋爲壍廣一丈實以水銀雨則流于水銀之上
市用珍寶
犯輕罪者則鞭杖犯死罪則置猛獸食之有枉則獸避而不食經宿則赦之

註1:

往字は佳字の誤か

註2:

梁書倭傳には倭王賛とある

【梁書】卷五十四列傳第四十八諸夷傳海南諸國東夷西北諸戎東夷倭傳

晉安帝時有倭王贊贊死立弟彌彌死立子濟濟死立子興興死立弟武

賛字と讃字では言偏(ごんべん)の有無の相違でありこれは通字なので誤記と言う程では無いが、それでも相応(ふさわ)しい字と言うものはある
南史では讃字を是としてこれを改めたのか、或(ある)いは梁書で参照した原史料に讃字での記録があり、梁書が偏を省略したのであって南史の方が原史料に忠実であったと言う事か

註3:

上記梁書倭傳には弟彌(弥) とある
倭王讃の弟の王名若(も)しくは人名は珍であると思われるが、珍字の異体字である𤪙(珎) と旁(つくり)が共通しているため、梁書では通字を採用したか単に誤写を行ったものかと考えられる
これも南史では珍字を是としてこれを改めたのか、梁書の原史料に珍字と記録されていたものと予想される

註4:

六国が正しいのであれば加羅が脱落か
その場合、倭,新羅,任那,加羅,秦韓,慕韓六國諸軍事が正しい事になる

文身国は倭国伝の伝中に挿し込まれている事が分かる
また、倭国伝と大漢国伝が意図して改行されているのか不明
明示改行であれば倭国伝では無く大漢国伝となる

大漢國在文身國東五千餘里
無兵戈不攻戰
風俗並與文身國同而言語異

.5 扶桑國傳

大漢国伝の後で明示して改行されているので、ここからは扶桑国伝となる

【南史】卷七十九列傳第六十九夷貊下東夷扶桑國

扶桑國者齊永元元年(499年) 其國有沙門慧深來至荊州
說云

扶桑在大漢國東二萬餘里地在中國之東
其上[註5]多扶桑木故以爲名
扶桑葉似桐初生如笋國人食之
實如棃而赤績其皮爲布以爲衣亦以爲錦
作板屋無城郭
有文字以扶桑皮爲紙
無兵甲不攻戰
其國法有南北獄若有犯輕罪者入南獄重罪者入北獄
有赦則放南獄不赦北獄
在北獄者男女相配生男八歲爲奴生女九歲爲婢
犯罪之身至死不出
貴人有罪國人大會坐罪人於坑對之宴飮分訣若死別焉
以灰繞之其一重則一身屏退二重則及子孫三重者則及七世
名國王爲乙祁貴人第一者爲對盧第二者爲小對盧第三者爲納咄沙
國王行有鼓角導從
其衣色隨年改易甲乙年靑丙丁年赤戊巳[註6]年黃庚辛年白壬癸年黑
有牛角甚長以角載物至勝二十斛
有馬車,牛車,鹿車
國人養鹿如中國畜牛以乳爲酪
有赤梨經年不壞
多蒲桃
其地無鐵有銅不貴金銀
市無租估
其昏姻法則壻往女家門外作屋晨夕灑掃經年而女不悅卽驅之相悅乃成昏
昏禮大抵與中國同
親喪七日不食祖父母喪五日不食兄弟伯叔姑姊妹三日不食
設坐爲神像朝夕拜奠不制衰絰
嗣王立三年不親國事
其俗舊無佛法
宋大明二年(458年) 罽賔國嘗有比丘五人游行其國流通佛法,經,像敎令出家風俗遂改

慧深又云

扶桑東千餘里有女國容貌端正色甚潔白身體有毛髮長委地
至二三月競入水則任娠六七月產子
女人胷前無乳頂後生毛根白毛中有汁以乳子
百日能行三四年則成人矣
見人驚避偏畏丈夫
食鹹草如禽獸
鹹草葉似邪蒿而氣香味鹹
梁天監六年(507年) 有晉安人度海爲風所飄至一島登岸有人居止女則如中國而言語不可曉
男則人身而狗頭其聲如吠
其食有小豆其衣如布
築土爲牆其形圓其戸如竇云