1. 弥生時代に使用された石鏃の殺傷力は銅鏃,鉄鏃を越えるとの主張
以前読んだ古代日本史での書籍
[註]に、サヌカイト石鏃の威力と銅鏃,鉄鏃の威力を比較した結果
石鏃の方が優れている との主張を見た事が ある
その時は別段気に留めなかったが、朝の通勤電車の中で俄(にわ)かに疑問が生じてしまったので ある
註:
記憶が曖昧で あるが、以下で あろうか?
【佐原真の仕事 4 戦争の考古学】
佐原 真(著), 金関 恕(編), 春成 秀爾(編)
いやいや、戦闘と言う観点から見れば殺傷能力と言う点に おいては石鏃の方が上かも知れないが、戦争 或(ある)いは継戦能力と言う観点から見れば やはり銅鏃や鉄鏃の方が上で あろうと思い直したので ある
なお、佐原 眞 と言う考古学者は同じく考古学者である 藤村 新一 が引き起こした旧石器時代石器の
発掘自作自演事件を擁護していた らしい
佐原真 - Wikipedia
一部には 佐原 眞 氏を高く評価する向きも あるが、こう言う事を手掛(てが)けていた人と言うのは、得てして
信頼出来ない気が しなくも無い
2. 戦争で矢は大量集中方式で投入する武器で ある
上記論者は恐らく 1張(はり) の弓に鉄鏃や石鏃を番(つが)え、射的に向かって矢を放ったのでは無いかと思う
# いや、実験した場面を把握していないので実際には異なるのかも知れず、飽(あ)くまで も私の想像では ある
無論一対一での決闘で あれば この
様な弓矢の使い方でも良いのかも知れないが、戦場では こう行った弓兵の運用は行わない
実際の戦闘では多数の弓兵が集団密集形態で組織的に戦場に投入され、狙撃の様な射法は行われず俗諺(ぞくげん)に言う "下手な鉄砲も数撃てば当たる" 形式で只管(ひたすら)射撃し捲(まく)る のである
と言う事は、個々の石鏃と銅鏃、鉄鏃の威力を比べても余り意味が無いので ある
矢を戦争に用いる際に最も重要な事は何かと言えば、それは短期間に大量生産を行い戦場で短期間の内に
大量に消費する事なので ある
更に言えば、鏃の形状や重量に個々の差異が あると実戦で使用する兵士に とっては扱いにくく なるのでは無いかと思う
これは別に戦闘に限った事では無く、運動競技や仕事に家事その他と汎用的に通用するかと思うが、人は普段から使い慣れた器具や道具を使用している方が効率が良くなり成果も挙げ易い
武器に ついても同様で、弓矢を扱う際に鏃の形が常に異なって しまっていると如何(いか)に弓の名人で あろうと標的に命中させるための勘所(かんどころ)が狂ってしまう事も ある
命中精度が兵の生死と戦闘の勝敗を左右する事も ある訳(わけ)で、練兵(れんぺい)時に使用していた矢を兵に支給した方が実戦闘でも良き戦果に繋(つな)がるかと思う
弓兵は同じ形状で同じ重量の鏃を使いたがるもの なので ある
所で、石鏃と言う代物は一つ一つ手作業で製作しなければ ならない物かと思う
頁岩(けつがん)を割って一度に幾つかの石片を削り出す事は可能かも知れないが、採掘し易(やす)い石場(いしば)が何処(どこ)に でも ある訳では無いし、何(いず)れに せよ人が手作業で作り出さねば ならない事に変わりは無いため、生産効率は悪い
しかも石鏃は戦場で使用すると鏃の先端が割れる等(とう)の破損が生じてしまい、再利用は難しいのでは無いかと思う
その点 銅鏃と鉄鏃で あれは鏃の材料と金型(かながた)さえ あれば
幾らでも量産が効き、冷却されて固定化した後で金型から外して鏨(たがね) で鏃片を切り落として行けば良い
その上、戦野に散乱した銅鏃,鉄鏃は
回収すれば材料として再利用が可能と なる
武器として使用するならば石鏃よりも銅鏃,鉄鏃の方が使い回しが良いので あり、兵士ならば石鏃では無く
銅鏃,鉄鏃の利用を望むのでは無いかと考える
つまり、矢一本毎の威力を比べれば石鏃の方が殺傷能力が高いかも知れないが、戦場で集中投入すれば銅鏃,鉄鏃の方が殺傷能力が高いと言う事なので ある
3. では何故石鏃は使用されたのか
銅鏃,鉄鏃の方が潰しが効くにも拘(かか)わらず、何故石鏃は使われたのか?
その答えは正に以下の文中に見出せる
石鏃 - Wikipedia
それが突如として弥生中期に、深く突き刺さりやすい形の石鏃が高地性集落の出現とともに近畿地方に出現し、大量に出土している。
このような状況からみて、狩猟具である弓矢が武器に変質し、戦争が行われたと考えられる。
中国史書の倭国大乱の記載と照応させる解釈は、現在広く認められるようになった[2]。
これを倭国大乱と見做(みな)して良いか どうかに ついては ここで論ずる事は無いが、出現地が関西地方で ある事から ある程度の推量は可能で あろう
つまり、本来は戦闘に
鉄鏃を使用したかったと思うが関西と言う場所柄では
鉄材,鉄鋼の入手が難しかったため、已(や)むを得ずに代用品として製造に手間が かかる石鏃を戦場に投入したと言う事で あろう
九州では銅鏃や鉄鏃が大量に出土しているが、これは朝鮮半島に近いと言う地勢上の利点に より青銅材や鉄材を入手し易かったと言う事情が影響しているので あろう
逆に関西地方では九州に比べて鉄剣や鉄鏃の出土が少なく、これは鉄器の普及が九州よりも遅れたためと解(かい)するのが自然で ある
4. 石鏃では戦争には勝てない
実際には石鏃は消滅し、鉄鏃が継続して使用されている
要するに動員兵力と戦闘規模が大きくなるに従い、石鏃では
実戦での利用に耐えなくなって しまったので あろう
所詮
石鏃は石器でしか無いので ある
公開 : 2016年2月12日